私の診療日誌(5)
まだまだ診断と手術治療が困難な坐骨神経痛の原因としての腰椎椎間孔部病変
札幌美しが丘脳神経外科病院が私の診療の拠点になって早くも二年が過ぎました。新型コロナ感染症で地域の広報活動が制限されるなかでも脊椎手術は順調に増えており、専門的に興味深いケースも散見されます。
その中で今回取り上げるのは、診断の困難な「腰椎椎間孔部病変による坐骨神経痛」のケースです。過去にも述べたことがありますが、この部位の病変は診断がつかなかったり、誤診手術が行われたり、今日においても腰椎変性疾患の臨床における難題であり続けています。
それでは、診断がつかないために長い期間に渡って坐骨神経痛と歩行障害に苦しんだケースを紹介します。
患者は50代の男性。若い頃から腰痛もちでした。2022年1月、急に腰痛と左下肢の坐骨神経痛、左下腿後外側部の痛みとしびれが出現し、歩行困難になりました。痛みは、立位保持と歩行で増強するが前傾姿勢と座位で軽減し、睡眠時は右側を下に、膝を曲げて寝ると楽だったそうです。某脊椎外科を受診し、MRIなどの検査を受けたが診断がつかず、薬物治療も効果がなかったそうです。そのため私の外来受診までに3カ所の脊椎外科を受診していますが、結局、原因は明らかにならなかったそうです。
患者が私の外来を受診したのは7月で、発症後既に半年が過ぎる頃でした。神経学的検査では、左L5神経根が支配する前脛骨筋(足関節を背屈する筋肉)と長母趾伸筋(足の親指を背屈する筋肉)の筋力低下と左下腿外側部から足背にかけての触覚と痛覚の低下を認め、Straight leg raising testは左側が30度で陽性でした。MRIでは、腰椎の脊柱管内に椎間板ヘルニアや狭窄などの異常所見を認めなかったが、左L5/S1の椎間孔外スペースは先天的に狭く、そこに余り大きくはない超外側型(最外側型)椎間板ヘルニアを認めました。これらによって左L5神経根・神経節が強く圧迫されていました。
最終的に診断は左L5/S1の椎間孔外狭窄症と超外側型椎間板ヘルニアの合併による左L5神経根症と判明しました。半年の経過でL5神経根障害が進み、薬物治療は効果なく、生活上の支障が大きくなっていたことから手術が必要と判断しました。手術は、チュブラーレトラクターと手術顕微鏡を用いるMD法で、2cmの皮膚切開で狭窄部の拡大とヘルニアの摘出を行いました。術後、坐骨神経痛は速やかに消失、筋力も回復して歩行は正常化しました。一方、下肢のしびれは末梢へと改善が進んでいるものの、術後1ヶ月たった現在もまだ残存しています。
本ケースを正確な診断に導くためのポイントをまとめると、(1)症状・徴候から、障害されている神経は左L5神経根である。(2)痛み・しびれが立位保持・歩行で増強し、前屈みや座位で軽減するのは、神経根が脊柱管内あるいは椎間孔部で圧迫・拘扼されているためである。(3)L5神経根症が発症するのは、L4/5の脊柱管外側部かL5/S1の椎間孔部である。
これらの診断ポイントをきちっと踏まえれば、「坐骨神経痛の正確な診断」から外れることはそうそう起こらないというのが私の過去4000例以上の腰椎MD手術の経験からのメッセージです。
患者さんには、(2)の立位保持・歩行で悪化し、座位や横になることなどで改善する腰や下肢の痛み・しびれの原因は殆どの例で腰椎にあり、治せる可能性があると知っておいて頂きたい。諦めないことが大事です
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