神経除圧術で治療可能な腰椎分離すべり症とは?

腰椎分離すべり症に対する低侵襲除圧術

固定術の合併症を恐れて手術を敬遠する患者さんへ。2cmの切開で痛み・しびれを取る手術法の紹介。

 固定術が必要とされてきた腰椎すべり症に対して、近年、拘扼神経の除圧術のみを行う医師が増加している。もちろん固定術が必要なケースは多いが、すべり症だからといって、なんでもかんでも固定かというと、決してそうではないというのが私の意見です。腰椎変性疾患のすべり症は、変性すべり症と分離すべり症に大別されるが、いづれのすべり症でも条件によっては除圧術のみで治療可能であることを強調したい。

それでは、どんな分離すべり症で固定術が不要なのか、最近経験したケースを例に説明したい。
患者さんは50代男性。16歳頃から腰痛を繰返し、次第に左下肢にしびれと間欠性跛行が出現した。地元整形外科で腰椎分離すべり症で、治すには固定術が必要と診断された。しかし、固定術は合併症の無視できない危険な手術と知ったことから、手術を見合わせてきたという。ところが最近、左下肢の間欠性跛行が悪化して生活に支障がでてきたため、私の外来受診を決められた。驚くべきことに、患者さんは福岡から札幌まで、文字通り日本の端から端へと、コロナ禍のさなか飛行機を乗り継いで受診された。遠路はるばる来られたのは、固定術の代わりにMD法による神経除圧術で対応できないか、それを確認するためでした。

患者さんの症状は左L5神経根症によるもので、右に症状は認めなかった。
術前CTとMRI:

術前CT
腰椎分離すべり症 術前CT

術前MRI
腰椎分離すべり症 術前MRI

a:正中矢状断、b:(左)椎間孔の矢状断、c:横断、d:冠状断

CTとMRI所見をまとめると、L5/S1に2度の分離すべりを認め、L5/S1の椎間板は完全に潰れて椎体同士が接触し、椎間の変性癒合が進んでいた。椎体間の不安定性は殆ど認めなかった(これは伸展・屈曲のダイナミックなレントゲン撮影の所見であるが、写真は割愛する)。bは左の椎間孔で、CTで高度の骨性狭窄を示し、MRIでは椎間孔内で強いL5神経根の拘扼を認めた。椎間孔の骨性狭窄が高度であることは、dのCTとMRIからも明らか。右の椎間孔狭窄も強いが、症状は認めなかった。

以上から、患者さんの左下肢のL5神経根症状と間欠性跛行は、L5/S1の分離すべり症に伴う椎間孔狭窄によると診断した。患者さんは50代で、一般的には固定術が必要な年齢だが、画像所見から、これ以上すべりが進行する可能性は低いと判断されたことと、腰痛と根性痛はなく、症状は下肢のしびれと間欠性跛行であることから分離椎間の不安定性は軽度と推測されたことから、固定術は不要と判断した。

このように変性による制動化が進んだ腰椎分離すべり症の椎間孔狭窄症では、私は2cmの切開によるMD法で椎間関節をできるだけ温存した神経根除圧術を行ってきた。高齢者の大多数でこの方針を取り、良好な結果を得てきた。本患者さんは高齢ではないが、分離部の制動化が進んでいることから、MD法除圧術の適応ありと判断した。

手術は、全身麻酔で腹臥位、L5/S1の正中から左側45mmに20mmの皮膚切開を加えて、MD 法の後外側アプローチで狭小化した椎間孔内でL5神経根を除圧した。

手術画像:除圧したL5神経根・節を矢印で示す。

L5神経根・節の除圧を、脊柱管内から椎間孔外へと行った。

神経根・節は尾側(椎間板側)で強い癒着を認めた。

術後経過:創部痛は軽く、術前は仰臥位と立位・歩行で腰痛と左下肢の痛みと間欠性跛行が出現したが、術後はこれらの症状はほぼ解消した。手術で新たに発現した神経症状は認めなかった。


術後MRIとCT:

a:横断、b:矢状断、d:冠状断

骨性に強く狭小化した椎間孔が拡大されている(a,b,c矢印);椎間孔へと入り込んだS1上関節突起を削除し、分離椎間孔内の線維性骨軟骨組織を摘出した。

3d-CT:椎間孔拡大と椎間関節温存

拡大した椎間孔は脊柱管内へと連続している。

椎間関節は2/3程度、温存されている。

以上、腰椎分離すべり症の大多数はL5/S1にあり、椎間孔狭窄症を合併してL5神経根症を引き起こす。このケースのように、椎間板腔が狭小化し、すべり椎間の不安定性が失われた症例では、MD法のような最小侵襲法による神経根除圧術で良好な結果が得られる。高齢者はこれらの条件を満たしている場合がほとんであり、私は固定術は不要と考えている。

もし、これらのケースで再発が起こるとしたなら、それはすべり症の進行によってではなく、椎間孔狭窄の再発によります。この場合にはMD法による神経根の再除圧術で対処できます。実際に私の経験でも、再発例で固定術を行ったケースはありませんでした。

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