"ゴルフ好き"を悩ます腰椎変性疾患。ゴルフを長く楽しむためのアドバイス。
1.始めに
私が手術を行ってきた腰椎変性疾患の患者さんには、”ゴルフ好き”が少なからずおられます。スイング時やボールを拾おうと腰を屈めた時の腰痛や坐骨神経痛、ラウンド中の下肢の痛み・しびれ、歩行障害など、症状は様々です。痛みが強くなり、歩行障害が進むと、ゴルフどころではなくなります。そうすると「手術を受けてでも、ゴルフを続けたい」そんな悲痛な思いを持って受診される患者さんがおられます。ゴルフと縁のない私などには理解の及ばないゴルフに魅せられた人々がなんと多いことか。そのような方々のために、もう一度ゴルフを楽しむことのできる腰に戻してあげたいと思うのですが、患者さんによっては、そう簡単ではないことを経験してきました。
今回は、”ゴルフ好き”を悩ます腰椎変性疾患について説明いたします。
2.症状でわかる腰椎変性疾患
ゴルフ中にどんな症状が起こるかで、その原因を推定できます。例えば、スイング中や腰を前に屈めた時に起こる腰痛であれば、椎間板や椎間関節の問題が疑われ、疾患としては椎間板症、椎間板ヘルニア、分離症、すべり症などがあります。じっと立っている時や歩行時に起こる腰痛や坐骨神経痛、下肢のしびれなら、脊柱管狭窄症やすべり症、椎間孔内・外狭窄症、分離すべり症などが疑われます。間欠性跛行なら通常は脊柱管狭窄症。もし腰痛のみで数日内に解消する鈍痛なら腰背筋疲労による可能性が高いでしょう。
このように症状の特徴から、おおまかながら原因を推定できます。もちろん、原因疾患確定のためには専門的な検査が必要です。
3.対処・治療法
治療法や対処法は、症状の原因によって異なります。
腰の回旋運動や屈曲姿勢で起こる腰痛には、腹筋・背筋の筋力を適切な運動で強化して、荷重や回旋運動負荷に対する椎間板や椎間関節の耐性と安定化を図ることが必要です。特に椎間板症、椎間板ヘルニア、すべり症に関連して肥満がある場合には、これを解消しなければなりません。肥満の解消は腰痛の一般的な解消法でもありますので日頃から体重管理には充分に配慮することが必要です。
もし、腰痛以外に坐骨神経痛や下肢の痛み・しびれ、間欠性跛行などを認める場合には、筋力強化だけでは原因の根本的な解消にはならないため、専門家の検査・診断を受けて、適切な治療法を検討することが必要です。このような段階の腰椎変性疾患では、一般的には手術が必要になる可能性が高いと理解してください。
4.手術は最小侵襲で
手術が必要と診断された場合には、原因疾患が何であれ、手術による骨や筋肉・靱帯の損傷・傷害が少ない低侵襲手術を受けることをお勧めします。可能な限り、固定術は避けた方が良いと私は考えています。私は、基本的にMD法で対応します。MD法は筋肉損傷が殆どなく、骨の削りも最少ですので、手術によって腰椎を弱くする心配はほとんどありません。これがMD法を勧める最大の理由ですが、同様のことが内視鏡等で行えるのであれば代替え可能です。
5.術後の注意
術後は、すぐにゴルフを再開するのではなく、少なくとも3ヵ月はゴルフを控え、その間は徐々にウオーキングやストレッチなどで腹筋・背筋の強化と腰椎の柔軟性の回復を図ることが重要です。私は、本格的にゴルフを開始して良いのは、術後6ヵ月過ぎと説明しています。もちろん、最終的には腰痛やその他の症状の状態をみての判断になります。患者さんによってはコルセットの着用も考えるべきです。
注意して欲しいことは、退院後早々に競走馬のごとく一目散にコースに駆け出す自重の難しい”ゴルフ好き”がいることです。これは極めて危険です。そのような患者さんは、退院後まもなく、また腰が痛くなったと受診することになります。腰椎手術は、機械の修理とは同じにならないことを肝に命じて欲しいものです。
6.ゴルフを長く楽しむために
腰椎変性疾患を持った方が、好きなゴルフを長く楽しみたいのであれば、それなりの注意が必要ということです。なぜなら、ゴルフのように腰に回旋を加えるスポーツは腰椎に対して好ましいスポーツとは言えないからです。恐らく、特定の椎間板や椎間関節に繰り返し機械的ストレスを加え続けることが問題なのだと思います。しかしながら、他に替えがたい至福の楽しみがある人生は素晴らしいことです。その素晴らしい人生を長く維持するための工夫・努力を日頃から怠らないことが一番大切なことだと思います。