椎間孔部病変をいかに適切に扱えるかは、腰椎変性疾患を扱う脊椎外科医の重要条件。「椎間孔部病変を制する者は腰椎変性疾患を制する」と言って過言でない。

私は長年、椎間孔部病変の外科治療に取り組んできました。その存在が知られながら、実臨床では謎の多い領域だったからです。脊柱管内病変に目が向いていた時代、腰痛や坐骨神経痛の原因が不明であったり、手術で改善できないfailed backが発生しました。これが私を椎間孔へと導いたのです。20年以上も前に遡る話です。現在手にした椎間孔部病変の知見はMD法から得たもの。神経根をピンポイントに除圧する手術だからこその成果です。

1.椎間孔部狭窄病変は、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症に次いで多い疾患群

私が執刀したMD法による腰椎椎間孔部狭窄病変(椎間板ヘルニアは除く)は685例。当ブログの別の記事では642例となっていますが、これは主病変としてまとめたもので、副病変も含めると685例になります。
椎間孔部狭窄病変の頻度は、MD法による腰椎変性疾患手術3932例の約17%にあたり、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症に次いで三番目に多い。

2.どんな理由で受診されたか

私がこの疾患を多数経験できたのは、県内外から多くの患者さんが受診されたからです。他の医療機関からの転院も多くありました。受診理由の多くは、痛み・しびれの原因が不明、手術を受けたが良くならなかった、梨状筋症候群や仙腸関節症で治療されたが良くならなかった、腰椎固定術が必要と言われたが固定術は避けたい、手術するほど悪くない、高齢者で手術の対象外とされた、等々です。中には病院を転々とされた末に、(患者さんの言葉で)やっとたどり着いた方もいました。

3.発症年齢と性別

年齢:60代が40%、70代が30%。両者で全体の70%を占めました。80代で極端に少ないのは、超高齢で受診や手術希望が少ないため。それでも、辛い痛みや歩行ができない苦しみからの解放と自立した生活を求めて徐々に手術例が増えています。
性別:男性が55%、女性が45%。やや男性に多い傾向があります。平成27年度の手術件数が極端に少ないのは、私が長期間の闘病生活にあったからです。

4.椎間孔を制する者は腰椎変性疾患を制する

冒頭に「椎間孔を制する者は、腰椎変性疾患を制する」と書きました。本疾患をどれだけ経験しているかが、腰椎変性疾患に対する脊椎外科医の力量を知る良い指標です。なぜなら、椎間孔部病変を熟知した医師は、当然のことながら脊柱管を熟知しているはずだからです。しかしながら、この逆は必ずしも正しくはありません。

患者さんの訴えから腰椎変性疾患を疑い、原因疾患を確定し、適切な治療方針を立てるプロセスにおいて、正しい診断をつけることが治療成功の第一歩です。森の中で迷わず目的地にたどり着くためには森を知り尽くすことが必要です。同じく、色々な疾患群からなる腰椎変性疾患という森の中で正確な診断にたどり着くには、腰椎変性疾患の全体像を熟知していなければなりません。

5.終りに

我が国は少子高齢化へ向かってまっしぐら。これから腰椎椎間孔部狭窄症は増えていくと予想されます。高齢者になっても、痛みのない、自立した生活を維持するために本疾患群の正しい知識を持つことが必要です。これからシリーズで椎間孔部狭窄病変の解説を行う予定です。

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